【白いクジラ号・航海日誌 第三話】Whisper of the Storm(嵐のささやき)

【白いクジラ号・航海日誌 第三話】
Whisper of the Storm(嵐のささやき)
夜の空は、
わずかに赤く染まっていた。
重たい雲の切れ間から、
ぼんやりと月が覗いている。
白いクジラ号**ミガロ(Migaloo)**は、
冷たい風を受けながら、
静かに航路を進んでいた。
その日、
スプーキーズには、一通の便りが届いた。
送り主は、
若い女性だった。
彼女の名前は、
遠い赤い国の風を、
はっきりと纏っていた。
名前だけで、
背負ってきた世界が、
ふと、垣間見えた。
仲間たちは、
何も言わずに、その気配を感じ取った。
── あの国には、独自の掟がある。
── あの風には、命じられる義務がある。
ここは、
そうした掟から自由になるために旅立った船だ。
だから、
心でそっと、答えを決めた。
数日後、
雨の日に、彼女は港に姿を現した。
細身のコート、
濡れた髪、
不安げな瞳。
けれど、
ミガロの仲間たちは、
静かに扉を閉じた。
無言のまま、
心で告げた。
── この船は、自由を守るためのもの。
── 強い風には、決して流されない。
彼女は、
悲しむことも、怒ることもなく、
静かに港を去っていった。
ミガロは、
再び帆を上げた。
雨の匂いを切り裂き、
まだ見ぬ光を探して。
まだ、5人。
けれど、
その小さな光たちは、
より深く、より強く、結ばれていた。
ミガロの航海日誌に、第三の記録が刻まれた。
第三章、Whisper of the Storm。
雨の夜、ひとりの旅人が現れた。
名前が告げる風の色に、
私たちは静かに気づいた。
そして、
私たちは誓った。
この航海は、
誰にも命じられず、
誰にも支配されず、
自らの意志で進み続けることを。
【第三話・了】